郷愁のテーマ

 目下広がる河川は夕焼けを讃えていた。トラスに組まれた朱色の鉄骨の群れが猛然と過ぎゆき、活発な振動音が車内にこだまする。橋に差し掛かったのであった。もう数分とせず着く。ホッとするような背筋の伸びるような、奇妙な気分であった。橋を過ぎると途端にしんとした。何十年の記憶を抱いた町が嘘みたいに広がっていた。女性のくぐもった声が到着前のアナウンスを始める。町を見下ろしたまま、座席脇のレバーを引いて背凭れを起こした。瓦葺きの多い景色が新鮮で、一様に赤く照って綺麗だった。小学校には変わらず楠が聳えていた。かつてよく通った道を知らない子供が歩いているのを見つけ、親近感を覚えた。不意に、過去がどっと溢れ出た。いつの間にかいろんなことを忘却していたのだと、気づいて溜め息が漏れた。人に会いたくなった。昔嫌いだった知り合いにも無性に会いたくなった。車両は次第に減速し、身体がじわりと前のめりになる。停車する前に荷物を持ち席を立った。乗降口へ向かう途中、お土産を買わなかったのを少し後悔した。次はうんと沢山買って帰ろう。そう決意すると、私を迎えるようにゆっくりとドアが開いた。